ピアス

仲のいい友達に呼ばれて、その子の家に泊まる日が続いた。
どうやら、1人だと眠れなくなってしまったらしい。
その気持ちが良くわかる私は、言われるがままに数日間共にした。

 

みんな言わないだけで、一人の部屋で眠れないってやつは割と多い。同性だろうと異性だろうと同じ部屋にいてくれさえすれば、なぜか眠れる。経験的なものからそういうことを考える人は少なくないんじゃないか、とそう思う。寂しいだとか、セックスがどうのとか、惚れた腫れたがどうのとか、本当にそういう話じゃなくて、ただ誰かがそこにいて、人の生活する音がする。それだけで、少しの緊張感と安心感に包まれて、良質な睡眠が取れる。

 

私も一時期そういう時があった。
私の場合、それがもしかしたら心と体を許す人間がいないせいなのかもしれない、と思って、この子と同じように友人を家に置いたり、男性と一晩だけの関係を重ねたり、俗にいうソフレというものを作って同じ時間を過ごしてもらった。
申し訳ないけれど、ただ、自分の為に、生活のために、全うに生きていくために眠りたいだけであって、そこに恋だとか愛だとか性欲なんかは1つもなかった。
申し訳ないのか?むしろ、都合のいい女であっただけかもしれないね。
でも、同じ部屋に人がいて、会話はせずとも存在を感じているということが、何故だか私に安心を与えていた。同じベッドに眠らなくても、同じ時間に睡眠を共にしなくても、それらは関係のないことで。ただ本当に、眠りたかった。寝たかった。

 

だから、この子の気持ちは痛いほど分かる。涙が出そうになるほどに、わかってしまう。
この子は、男の人と遊べるほど割り切れなくて、でもどうしようもなくて、私を頼ってきた。泣きながら。
帰り際にも、「もう来てくれないのかも、と思うと寂しくなるから何か置いていってよ」と言われて、大事にしているピアスを置いてきた。

この時間によって、何か与えられるものがあったなら良かったと思うし、また、この子から何かを奪ってしまったようであっても、仕方のないことだとも思う。

 

メンヘラって言葉が俗語として一般的になって暫く経つ。軽々しく扱う機会が多くて、なんだか世の中の人間みんなみんなメンヘラに見えてくることもあるけれど、みんなどこかで他人を拠り所として生きているのには変わりない。それを依存だと言ってしまえば、そこまでだけど。

この子が世間一般から見て、メンヘラかどうか、そんなことはまあどうでも良いよ。
可愛いらしくて、それから少し羨ましくて。「何かあなたを感じられるものを置いていって」なんて言えてしまうことが。ドキドキしてしまうよね。

 

いやらしいと思っていても、こっそりピアスを枕元に置いて帰るような、そんな思慮の浅い女になってみたかったと、少しだけ思ってしまう私がいた。いやらしいとすら思わずに、が本当か。